2020年に新しい学習指導要領が改訂され、小学校3・4年生から外国語活動が始まり、5・6年生は外国語が教科になりました。
日本の今までの教育過程では中学・高校と英語を学習したにもかかわらず、英語を話せない、英語に苦手意識がある日本人が多いのが現実ですが、前倒しで小学校から英語を始めたからといって、語学が堪能になるのか疑問に感じている方も多いでしょう。
中央教育審議会答申において、学習指導要領は学校だけでなく、家庭、地域の関係者が幅広く共有・活用できる「学びの地図」としての役割があると示されました。また、学校と社会が「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創る」という目標を共有し、連携・協働する「社会に開かれた教育過程」が学習指導要領とされています。教師だけでなく、保護者も教育の当事者として学習指導要領について知っておくことは大切なことです。
小学校からの英語の学びによって、子どもたちは自らの世界地図をどのように広げていけるのか、文部科学省による小学校の外国語活動・教科を導入したビジョンや目標、家庭や地域でできることを学習指導要領から読み解いていきたいと思います。
新しい学習指導要領で教育はどう変わる?
新しい時代の「生きる力」学びの、その先へ
平成23年版学習指導要領では「生きる力」を『それはゆとりや詰め込み教育ではなく、子供たちが未来社会を切り拓くために新しい時代に求められる資質・能力を育むこと』と表しました。
令和2年の新学習指導要領でも今までの学習指導要領と同様に「生きる力」の重要性は変わりませんが、グローバル化が進み、人工知能(AI)などの技術革新も加速、時代の変化が激しさを増す現代社会に対応すべく、新学習指導要領では「生きる力」の定義が刷新されました。
新学習指導要領のPRパンフレットのキャッチコピーは
「生きる力」学びの、その先へ
「生きる力」を育むために『主体的・対話的で深い学び』が必要とされ、教師がどう指導するかの『型』ではなく、児童が学びの意義を自覚して何をどう学ぶか『学びの質』を重視します。学習指導方法としては、児童生徒同士がペアやグループでアクティブに取り組む『アクティブラーニング』の導入・活用が求められます。
育成すべき資質・能力の三つの柱
新学習指導要領では英語だけに限らず、教育課程全体を通して「生きる力」をより具体化するために「育成を目指す資質・能力の三つの柱」を掲げています。
①知識や技能
②思考力、判断力、表現力
③学びに向かう力、人間性
何を理解しているか,何ができるか
(生きて働く「知識・技能」の習得)
理解していること・できることをどう使うか
(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)
どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか
(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵(かん)養)
新学習指導要領において「よりよい学校教育を通してよりよい社会を創る」という目標のとおり、教育で育成すべき資質は、①教育課程を終えて社会に出てからも生涯にわたって能動的に学び続ける(生涯学習)姿勢、②社会・世界との関わり方、③学んだことを人生や社会に活かす力の3つの柱を定めています。
新学習指導要領の改訂と並行して、センター試験を廃止し大学入学共通テストが導入され、「大学の入学定員管理の厳格化」に伴う都市圏の大学合学者の抑制といった大学入学者選抜改革が進められています。新学習指導要領の改訂に沿って、英語4技能の民間検定試験の活用と国語・数学の記述式テストが実施される予定でしたが、導入が見送られるなど混迷しており、教育現場の教師や受験生にとって制度変更への対策が大きな負担と不安となっています。
教育の目的が受験のための知識や技術の習得に偏るのではなく、未知の状況にも対応できる批判的思考力や問題解決能力といった生涯の土台となる21世紀型スキルの醸成が大切となります。英語学習においても受験のための語学ではなく、グローバルでダイバーシティな社会で異なる国や文化圏の人と英語をツールとして円滑にコミュニケーションやコラボレーション(協働)できる力の育成が重要になります。
「何を教えるか」から「何ができるようになるか」へ6つの枠組み
これまでの教育は「教員が何を教えるか」「どう指導するか」に主眼が置かれがちでしたが、指導の目的を「何を知っているか」にとどまらず「何をできるようになるか」まで発展させる必要があると指摘しています。各学校では次の6つの枠組みに沿って学習指導計画を策定していきます。
- 何ができるようになるか(育成を目指す資質・能力)
- 何を学ぶか(教科等を学ぶ意義と,教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成)
- どのように学ぶか(各教科等の指導計画の作成と実施,学習・指導の改善・充実)
- 子供一人一人の発達をどのように支援するか(子供の発達を踏まえた指導)
- 何が身に付いたか(学習評価の充実)
- 実施するために何が必要か(学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策)
「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」平成28年12月21日 中央教育審議会答申p21より
「何ができるようになるか」ですが、英語では既に「CAN-DOリスト」という形で実施されています。
CAN-DOリストは、2011年に文部科学省の「外国語能力の向上に関する検討会」でとりまとめられた「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策~英語を学ぶ意欲と使う機会の充実を通じた確かなコミュニケーション能力の育成に向けて~」のなかで、『学校は学習達成目標をCAN-DOリストの形で設置・公表し、達成状況を把握』する提案がなされ、今日に至るまで、多くの中学・高校でCAN-DOリストが導入され、生徒の英語力向上、教師の指導方法の改善に活用されています。
カリキュラム・マネジメント
学習指導計画を策定するためにはカリキュラム・マネジメントの確立が必要となります。カリキュラム・マネジメントとは、教育課程(カリキュラム)を編成、実施、評価、改善を組織的かつ計画的に進め、各学校の教育の質の向上を図っていくことです。
カリキュラム・マネジメントの3つの側面
各学校は、児童・学校・地域の実態を適切に把握して、以下の3つの視点を踏まえてカリキュラム・マネジメントしていきます。
- 教科横断的な視点を持ち、学校での教育目標達成(グランドデザイン)を踏まえて教育・教科の内容を組織的に配列する。
- 教育課程の計画(Plan)実施(Do)評価(Check)改善(Action)の「PDCAサイクル」の確立をする。
- 地域と連携し必要な人的・物的体制を確保する。
これまでカリキュラムといえば教育課程と同義に扱われることもありましたが、新学習指導要領では、小学校6年間を通して「どのような子を育てたいのか」を定めた学校の目標や理念の全体構想「学校のグランドデザイン」を土台として、「どのような資質・能力を身につけさせるか」という「資質・能力のデザイン」から「各教科のグランドデザイン」へと掘り下げ、年間指導計画、各単元の授業案をつくります。
地域や社会を意識させ繋がりを創ることも重要です。地域の特性も踏まえて、放課後や週末に地域の教育的援助資産を活用した授業を組むのも有効です。